5月3日・なあ〜んかやる気がおきない日
     
     ただ今、ゴールデンウィークの真っ最中!
     楽しいはずの連休なのに、僕とあっちゃんは少し憂鬱・・
     だって、最近野球部に入部してきた鳥谷くんや、桧山さん、矢野さん達に
     ポジションを取られるかも知れないから、不安で仕方ない。
     だからこうやって、たまの野球部の休みの日でも
     あっちゃんと2人で練習をしようか・・って、空き地まで自転車で来たんだけど
     なあ〜んかヤル気がおきない・・・

     軽くキャッチボールをしただけで、どちらからとも無くやめてしまった。
     「憲くんごめん、なんか力入らんわ」
     「ほんまやな〜こんな事なら僕んちでプレステでもしたら良かった?」
     「うん・・・わからん」

     「あっちゃん、あいつ思ったより巧かったな」
     「そんなん見る前から、分かってたわ。少年野球してたんやから
     僕みたいに最近したヤツと、全然違うやん!
     憲くんの方も、桧山さん等どうなん?」
     「巧いよ、元々なんでも出来る人やから・・・」
     「そうかあ〜・・・・」

     2人で顔を見合わせて、ため息をついてしまった。
     桧山さんや矢野さんが、入部するって聞いた時は
     「負けるもんかっ!」って思ったけど、実際桧山さんのプレイを見たら
     想像以上に上手だったので、それに気落ちしてしまったのかも知れない。
     「あっちゃん、やっぱり僕んちでゲームしよ!新しいソフト買ったばっかりやし」
     「うん!そうやね」

     僕達は、急いで自転車を置いている所まで、走って行った。
     その時・・・
     「赤星く〜ん!藤本く〜ん!」
     聞きなれない声の方を向くと、クラスの女子2人だった。

     「こんな所で、何してるの?」「今何してたん?」
     僕は、吃驚した。クラスの女子とは、殆ど話なんてしない方だ。
     たまに、あっちゃんが女子の誰かに、上靴を隠されているみたいだけど・・

     その女子は、僕たちのグローブを見つけると、すかさずそれを手に持った。
     「練習してたん?」「私達にも教えてよ」
     「いや、もう帰る所やから」
     「ええ〜!?帰るの?一緒に遊ぼ!私達ね、前から2人と話したいなあ〜って
     思ってた」
     あっちゃんは驚いて、自転車のサドルから落ちそうになっていた。

     「2人が野球部で練習している所を見て、なんか前から思ってた印象と
     違うし・・・クラスの女子達もずっと2人を見ていたの知らんでしょ?
     みんなカッコいいなあ〜って、言ってたよ」
   
     僕とあっちゃんは、顔を見合わせて照れた様に笑いあった。
     「ここで2人に会えたの、今度学校で自慢できるわ!」
     「アハハ・・・・あっちゃん、顔赤いぞ」
     憲くんこそ耳まで赤いで」

     その時、僕達の足元に硬式球が転がってきた。
     素早く拾い上げると同時に、同じ学年っぽい男子がこちらに向かって走って来る     「あっ!それ
僕のです。ありがとうございます」
     僕は、その子がグローブを持っているのを見逃さなかった。
     「野球してるの?」
     「あ、はい」
     「どこの学校?」「阪神学校です」
     「一緒やん!野球部なん?」「・・・・いえ、違います」
     「僕ら、野球部やねん」「そうなんですか」
     「1人で何してたん?」「ピッチングの練習です」
     「1人で?僕キャッチャーしたろか?」と、あっちゃん。
     「いえ!いいんです、大丈夫です。でも僕もいずれは阪神野球部に入りますから
      その時は、お願いします!」
     その子は、僕からボールを笑顔で受け取ると
      ぺコリとお辞儀をしてまた走って行く。

     「あの子、知ってるぅ〜」女子の1人が言った。
     「えっ?何年?」「確か3年やわ、久保田くんって言ったかな」
     「野球経験者みたいやな」あっちゃんが遠くにいる久保田くんを見ながら言った     「今、なんかリ
ハビリ中って聞いたよ。」
     「ええっ!?リハB・・・なんて?」「リハビリ!」
     「なんで?」
     「噂やけどね、凄いボールを投げるピッチャーらしいけど、去年に肘を
     壊して、投げられなくなったって・・・で、どっかの場所でリハビリも兼ねて
     ゆっくり練習しているみたいやって!」

     僕はその時、誰かに頭を叩かれたみたいになった。
     それは、あっちゃんも一緒だったのだろう。
     「憲くん・・・ぼくら・・・」「ほんまや・・・」

     一体僕達は、何を甘えた事を言っていたんだろう・・・
     ポジションが危ないからって、それだけでやる気も覇気も無くしてしまう。
     久保田くんは、故障で今満足に野球も出来ないのに、一生懸命に少しづつ
     練習している。
     そんな事情があるなんて、あの明るい表情からは全然分からなかった。

     それにポジションが危なかったら、取られないように練習すればいいだけなのに
     今までの与えられた現状に満足して甘えきっていたのかも知れない。
     久保田くんの事を思えば、僕らはずっとずっと恵まれている。
     今僕らに出来る事は、練習する事!それだけだ。

     「あっちゃん!やろか!!」
     「うん!」
   
     僕らは、またグローブを掴んでキャッチボールを始める事にした!
     「赤星くんと、藤本くん!私らと遊んでくれへんのぉ〜?」
     「ごめ〜ん、僕ら野球の事しか興味ないから!」      
     「ええーー!ずるい〜!」「でも硬派もかっこいいよ〜!」

     女子のそんな言葉さえももう、頭に入らなくなった僕らだった。
    
                     PM21:00   
      



トップへ
戻る



inserted by FC2 system