4月18日・初めての試合で緊張した日

     「わあっ!あっちゃん!むこうの校長外国人やわ」 
     「えっ!?ほんまや!僕外国人をこんな近くで見たの初めてや」

     今日は、ライブ小学校との練習試合だった。
     吃驚した!だって、野球部を引き連れてきた校長先生が
     青い目をした外国人だったから・・・

     あっちゃんはもうそれだけで、びびってしまったみたいで
     目がキョどっていた。
     そんなあっちゃんを見て、星野先生はあえてスタメンに入れるって言い出した。
     「のりく〜ん、僕出来るやろか?」
     「出来るやろ?練習してきたやん!」
     「憲くんは、スタメンに入ってないの?」
     「あはは!入るわけないやん、1番下級生やのに」
     「なんか、うらやましい・・・」

     試合に出るあっちゃんと出ない僕。
     こんなにも緊張度が違うなんて、あっちゃんお気の毒になあ。

     「あれっ?レッド!」
     僕を「レッド」って呼ぶのは、あの人しかいない。
     「あっ!桧山先輩、矢野先輩!」

     6年の桧山さんと、矢野さんだった。
     桧山さんは、生徒会長。矢野さんは、副会長をしていて
     2人とも学校中の人気者だった。
     特に矢野さんは、毎年学校内の「イケメンボーイ選手権」に優勝するほど
     男前で、笑うと白い歯がキラリン☆と光って女子からも人気がある。

     桧山さんは、見た目はもちろんカッコいいけど
     凄く優しいし、相談事にも親身になって乗ってくれる。
     生徒会長をしている時は、キリッとしてかっこいい。
     でもたまに、面白い事を言って皆を笑わせてくれる。
     将来は、芸人さんになりたいって聞いたけど、ほんとかな?
     僕も上級生になったら、この2人みたいになりたいって思っているんだ。

     「レッド、野球部かあ?」
     「陸上部に入るんちがうん?」
     「そのつもりだったんですけど、無理矢理というか・・」
     「ああ〜金本に引き抜かれたんやな、僕らの友達も危なかった言うてた」
     「入ってしまった限りは、頑張りや!」
     「はい、頑張ります!」

     桧山さんと矢野さんが歩いていくのを、憧れの眼差しで見ていた僕に
     それまでの穏やかな声とは正反対の声が、聞こえた。

     「おおーい!レッド!お前、センターに入れやあ〜」
     金本さんの声で、現実に戻された僕は吃驚した。
     「ええっ!センターは中村先輩じゃないんですか?」
     「そのつもりだったんやけど、急にはらいたおこしよって、変更じゃ!
      あいつ牛乳飲み過ぎやねん!」
     「はあ・・・・わかりました・・」
     「レフトのボールも取りに来いよ、お前なら出来る!」
     「金本先輩は、取らないんですか?」
     「あほか、俺の守備は有名や、トンネル金ちゃんって言うてな・・
      取れるやろ、とみんな思ったボールも、スコーン!と抜けていきよる」
     「そんな自慢いりません・・」

     突然知らされたスタメン。もうそれだけで、心臓がばっこんばっこん言い出した。
     これじゃあ、あっちゃんの事言えないや・・

     「あっちゃん、僕もスタメンって言われてしもた」
     「えっ?ほんまに?憲くん、今ちらっと聞いたんやけど
      向こうの校長、リトルリーグのスカウトも
      やってるらしいねん、だから僕らの学校からも上手い人がスカウトされるかも
      しれんて!」
     「へえぇ〜すっごいなあ〜!あっちゃん、キャッチボールしよ!」
     「オッケー!」

     僕もあっちゃんも口に出して言わなかったけど、密かにスカウトの期待を
     持っていたのかも知れない。
     2人でしたキャッチボールは、今まで以上に気合の入った投げあいで
     グローブをはめているのに、手のひらが凄く痛かった。
     僕達2人は、いつの間にか野球を好きになってしまっていたようだ。

     試合が始まった。
     案の定、金本さんは左中間越えのヒットを打たれても、僕に任せてくる。
     ライトの葛城さんは話もした事も無く、僕の足も知っているはずが無いのに
     「あかほし〜!まかせた!」って、叫んでるし、もう左右に走り回って
     バテバテになった。
     あっちゃんのショートも、気の小ささが出ているのか
     ファーストへの送球が、凄い暴投になっていた。
     そのたびに、後ろから「どんまい!あっちゃん」って、声をかけるけど
     耳に入らないらしく、目だけキョロキョロだ。

     バッティングは、まあまあだった。
     1番があっちゃんで、僕が2番。
     ベンチから「ちびっこ2人組」って、声が聞こえていた。
     あっちゃんがヒットで出て、僕がバントをしようと思っても
     これが上手くいかないんだ!
     2度失敗した時は、ベンチにいる星野先生の「おらあああーー!」
     って、叫び声が聞こえた。怖いよ〜〜
     後であっちゃんが「憲くん、バント練習一緒にしよな」って、言ってくれたのが
     嬉しかった!

     結果は、7−2で阪神学校の負け。
     この2点は、金本さんとアリアスさんのHRだ。すごかったなあ〜
     特に、アリアスさんの特大の綺麗なアーチを描いたHRには、見惚れたほど。
     グランド整備や、道具を片付けている時、あのライブ小の校長が
     アリアスさんに、声を掛けている!
     も、もしかして!リトルリーグにスカウト!!??
     5分ほど、グランドの隅で話してその後、僕らの所に走ってきた。

     「ジョージ!スカウトか?」と、星野先生。
     「ハイッ!リトルリーグヲススメラレマシタ〜」
     「どうするんや?」
     「ハイッテミタイデス、モットウマクナッテ、シンガイコクジ〜ンニナリマス
      ミギウチガデキルヨウニ、ナリマス」
     「おう!頑張れよ!ちょっとオマリー校長に挨拶してくるわ」
   
     星野先生はそう言って、走っていった。
     「ええのぉ〜俺もスカウトされへんかな?
      それにしても・・・おいっ!おまえら!」
     金本さんが、僕とあっちゃんに向き直った。
     「はい?」
     「お前ら、何回バント失敗したら気が済むねん!」
     「い、いえ、金本先輩、失敗したのは僕だけで、藤本くんは関係ないんで・・」
     「モンキーのリードの仕方で、バントのやり方も変わってくるんじゃ!
      これから、2人だけでバント練習ばっかりしとけよ!
      分からん事あったら、そこにいるいらぶっちに聞きに行け!」
     「え??伊良部先輩は、ピッチャーですけど」
     「アイツは、何故かバントは上手いんじゃ、やる気なさそうにして
      さりげなく成功させよる」
     「ふぅ〜〜ん」

     僕とあっちゃんは、伊良部さんの方を見た。
     その視線に感じてか、伊良部産さんがギロッと僕達を睨み返す。
     星野先生顔負けの迫力だ。
 
     あっちゃんが僕の腕をぎゅっと痛い位握りしめた。
     僕も、あっちゃんにしがみついた。

     「やだあーーー!久慈先輩の方がいいよーーー!」
     
     でもあっちゃん、小声で「よろしくっす!いらぶっち!」
     って、言ってたな。
     その怖いもの知らずを、試合に出せよ!と思った。

     その夜は、伊良部さんが夢に出てきそうで、なかなか寝られなかった・・
     
     「おやすみ・・・いらぶっち・・・」
    
                       PM23時  
 
     

                                 この作品はフィクションです。
     
 
 


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