6月1日・ついに・・・の日
   
   「えっ!?僕がトップバッター!!」

   学校区内での試合が近づいて来た。
   それだけでも緊張するのに、いよいよレギュラーが発表された。
   打順と守備が、監督の口から出た時は吃驚した。

   「センターで僕が1番打者・・・」
   名前を呼ばれた時は、冷静さを装って「はいっ!」と元気よく返事したけど
   内心はどきどきだったんだ。
   1番打者って「斬りこみ隊長」、ゲームの流れは、この僕にかかっていると言っても
   過言ではない。
   (うわあ〜出来るかな・・?)

   「憲くん、憲くん!」
   急に後ろから、誰かに飛びつかれた。
   「うわっ!ああ―吃驚したあ〜なんやあっちゃんか」
   「憲くん、1番やって?僕2番やねん。2番でショートやって」
   「2番になったん?2番も大変やな」
   「そうなん?憲くんの方が大変ちゃうの?」
   「どこでも大変やけど、2番は何でもしなくちや駄目やねん。
   僕が塁に出ると、バントなり進塁打なり打って僕を塁に進める役やん」
   「ええ〜?そんな器用な事出来るかな。
   憲くんは、僕の力借りなくても盗塁でも何でもしたらいいやん」
   
   あっちゃんが僕を笑わそうとして、そんな言葉を言ったのは感じていたけど
   いつものノリが出てこない僕だった。

   (盗塁か・・・足が速いから少し前から練習させられていたけど
   まだまだ自信なんてないよな・・)

   「おおい!お前ら〜!」
   「やばっ!金本・・」あっちゃん、素早く僕の後ろに隠れる。
   「赤星!お前トップバッターやから、絶対塁に出ろよ。
   藤本!赤星が塁に出たら、自分の身体に当てても赤星を塁に進ますんや
   そこで!4番のワシがどっかーーんとHR打ったる!
   これで、勝ちは決まりや」
  
   僕はある事に気がついた。
   「金本さん、3番は誰なんですか?」
   「あ?まだ決まってないんや。それだけが気になっとるけど。
   分かったな!ワシまで回せよ」
 
   そう言い残し金本さんは、打撃練習の方に走っていった。
   3番、凄く大事な打順、一体誰になるのかな。
   3番を打てる人って・・・中村さん?矢野さん?桧山さん?
   でも僕は、そんな心配をしている場合じゃないって事だ。
   トップバッターとして、やらなければいけない事を確実なモノにするために
   打撃練習を増やさなきゃ。
   いやそれとも、もっと盗塁の練習をした方がいいのかも・・・

   金本さんが行ってから、あっちゃんがすごすごと僕の背後から出てこう言った。
   「憲くん、1番の自信ある?」
   「えっ?」
   「うん、なんかさっきからめちゃ考え込んでるやん。
   考え込んでる時の憲くんは、もうええやん!って言う位考えるから
   しんどいやろうなあ〜って、前から思ってた」
   「うん・・まあ・・正直しんどい。。。」
   あっちゃんは、パッと顔を輝かせて自分の感が当たったのが
   凄く嬉しそうな表情をした。

   「そんな考えてもしょーがないやん!不安やったら練習するだけ、そうやろ?」
   「分かってる。でもなあ〜昨日までは、7番8番位かな?って思ってたから
   1番は、やっぱり力不足かも・・」
   「憲くんらしくないわ!
   僕らレギュラーになる為に、一緒に練習したきた自信があるんやで」

   あっちゃんが言うとおり、ずっと2人で人の倍練習してきた。
   2人で朝練から始まり、お昼休みにはキャッチボールをして
   放課後は一番にグランドに出て、練習した。
   もちろん、クラブが無い日も公園や学校で、トスバンや軽いバッティング。
   本当に野球だらけの日々だった。

   あっちゃんの言葉で練習してきた日々を思い出した時、何かが弾け飛んだ。
   僕の気持ちが分かったのか、あっちゃんは大きく頷いた。
   「もっと盗塁の練習する!」
   「憲くんを塁に進ませる為に、打撃練習する!」
   僕たちは、笑いあった。

   初めて(?)あっちゃんが励ましてくれた。
   いつも、僕の後ろに隠れて先輩達や監督から逃げ回っているあっちゃん。
   あっちゃんの事を良く知らないやつは、そんなあっちゃんを
   「よわっちい奴」「コソコソしてる奴」とか、面白そうに噂してるけど
   本当は、あっちゃんって僕よりずっと「強い奴」って思ってるんだ。
   だって、どんなに怒られても涙ひとつ見せないんだよ。
   それに一度だって「野球部をやめる」なんて、言わない。
   僕はすぐに緊張してしまって、家に帰りたくなるっていうのに。
   
   「赤星くん!、藤本くん!」
   突然、名前を呼ばれて振り返ったら・・

   「濱中くん!!」
   濱中くんは、大きな瞳をくりくりさせて笑顔でこう言った。
   「僕も今日から、野球部だよ!」

   濱中くんが、戻ってきた・・・

           PM21:00     

   
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