5月10日・僕たちが出会った日

     「こ・こらっ!!赤星と藤本なにしとるんやあ〜」
     「やばっ!見つかった、逃げろあっちゃん!」
     「ちょっ、ちょっと待って!」

     僕達は足をもつれさせながら、放課後の教室から逃げ出した。

     翌日のホームルームの時間・・・
     「あ〜・・あの〜手紙やけど・・欠席してる濱中に届けて欲しいんや
     えっ〜と・・・赤星と藤本、二人に頼むわ。
     理由は言わんでも分かるな」
     担任の岡田先生は、僕らを見て笑った。
     「はい、分かりました」と言いつつ、あっちゃんと目が合った。
     あっちゃんは「ついてないわあ〜」と、口パクで僕に言う。
     「藤本ぉ?なんかその〜文句あるのか?」
     「いえっ!何もありませ〜ん」
     「頼んだで」

     下校途中、岡田先生に貰った濱中くんちの地図とプリントを手に持ち
     自分達の家とは、反対方向の道を歩いていく。
     「あ・あれっ?この道でいいやんなあ?」
     「知らんわ、僕方向オンチやもん」
     「ずるいなあ〜あっちゃん。僕もよう分からんし」
     岡田先生の書いた地図が分かりにくくて、頭をひねるばかりだ。
     半ばやけくそ気味で、道に落ちていた棒を手で立てて
     倒れた方向に行く・・・なんていい加減な事を、二人で遊びながらやっていた。

     気がつくともう4時を過ぎている。
     「憲くん、僕お腹すいたわ。まだ着けへんの?」
     「お腹すいたのは、あっちゃんだけと違うわ。
      僕も今日、新しいゲームソフト買いに行くはずやったのに・・
     何でこんな事・・・あっちゃんのせいやで」
     僕の言葉に、あっちゃんは大きな眼を見開いた。
     「僕は提案しただけや、やろうって言ったのは、憲くんや!」
     「あっちゃんが言い出したりしなかったら、こんな事にならへんかった!」
     「冗談で言っただけやのに・・・」
     「あっちゃんが、黒板消しをドアの上に挟んでたらどうなるんかなって
      しょーもない事言うんやもん、お陰で岡田先生に見つかって
      プリント届けに行く羽目になってしもたんや。
      そっちのせいやで!」
      「背が届かんからって、進んでイスを持ってきたのは、そっちやん!」
      「イスにホイホイ乗ってたんは、誰やねん!」
      「そのイスを押さえてたのは、憲くんやんか!」

      「あっ・・・・」
      「あっ・・って、自分でも忘れてたん!?イス押さえとくからドアに挟めって
       ニコニコしながら、言って・・・」
      僕を見ながら怒っているあっちゃんの顔を、無理矢理真正面に向けた。
      「いたっ!何するねん!・・・・あっ・・・あった・・・」
  
      表札に「濱中」という文字。
      どうやらお腹が空きすぎて、怒りっぽくなっていたらしい。
      そして、岡田先生の地図より、言い合いしながら家を見つけた可笑しさで
      照れ笑いし合った。
      「ごめんな、あっちゃん」  「ううん、ぼくもごめん」
     
      「ぴ〜んぽぉ〜〜ん!!」インターフォンを押さずに
      仲直りのしるしとして、二人で声を合わせて叫んだ。
      すぐにドアが開いて、出てきたのはパジャマ姿の男の子。
      「濱中くん?」クリッとした大きな目をして、なんだか頼りなさそう・・
      濱中くんは、恥ずかしそうに小さく頷いた。
      4年生になって初めての対面に、僕達もそれからが続かない。
      でも、その沈黙を破ったのは、以外にも濱中くんの方だった。

      「岡田先生から電話で聞いてるよ、プリントを届けてくれるって」
      「あっ・・・僕赤星っていうねん」「僕は、藤本。よろしく〜」
      早速、濱中くんに持ってきたプリントを渡す。
      「ありがとう、いつもは岡田先生が届けてくれるねん」
      「へぇ〜そうなん?」
      当たり前かも知れないけれど、あの岡田先生がそんな事をしていたなんて
      イメージが違ったなあ〜
      「あの先生、無愛想やけど良い先生やと思うし」と、濱中くん。

       「ふ〜ん・・・・あっ僕らもう帰るな。寝なきゃあかんやん」
       すると、濱中くんは泣きそうな表情になって言った。
      「ちょっと入る?」「えっ?」「いいん?」「お母さんは?」
      「ん・・・仕事。僕一人やねん」

      あっちゃんと顔を見合わせて、小さくなりながら案内された濱中くんの部屋に
      入った。
      そのとたん、目についたのが、まさしく今日僕が買おうと思っていた
      ゲームソフトがあったんだ!
      「あっ!これっ!もう買ったんや!」
      「朝にお母さんが買ってきてくれたんや、やってみる?」
      「ううん、いいわ。自分で買ったのをやるのが大事やもん」
      濱中くんは、ベッドの端に腰掛けてなんだか嬉しそうに僕たちを見た。

      「早く学校に行って、みんなと遊びたいなあ〜」
      「ごめん、聞いていい?どこが悪いのん?」
      「ちょっと身体が弱いだけやから・・」
      「じゃあ、早く学校においでな!みんな待ってるよ」
      「ほんまに?学校に行って思いっきり野球がしたいねん!」
      「えっ!野球!!僕ら野球部やで〜!なあ、あっちゃん!」

      急にあっちゃんに振ったのが悪かったのか、なにやら慌てている様子。
      「えっ!?あっ!そうそう!給食はおいしいで〜」
      「ちゃうわ!濱中くん、野球部に入りたいって言ってるんや」
      「あっ、そうなんや〜はよ学校においでな、一緒に野球しよっ!」
      「うん!ありがと。頑張って薬飲むわ」
      濱中くんは、大きな目を上目使いにして、僕たちを見た。
      その目に少しどきっとしてしまった僕。
      「また、遊びに来てくれる?」
      「うん!いいよ〜」
      僕の言葉にホッとした表情をした濱中くん・・・

      そうだろうな。楽しい学校に行けなくて、おいしい給食も食べれなくて
      ずっと寂しいだろうな。
      そう思うと、濱中くんと一緒に野球がしたくてたまらなくなってきた。
      そして濱中くんとは、きっと仲良しの友達になれそうな気がした。
      なんでか?って・・・僕の直感かなあ?
      はっ!もしかしたら、岡田先生は僕達がこうなる事を予測して
      プリントを届けさせたんじゃ・・・・まさかね・・・
      
      「野球部で待ってるで!」「一緒に金本をやっつけよう!」
      「ありがとう!学校に行ったら絶対に野球部入るな」
      おうっ!!」

      3人で意気投合して、僕とあっちゃんは帰り道についた。
      「良かったなあ〜友達になれて」
      でも、あっちゃんはなんだか浮かない顔。
      「どうしたん?」
      「なあなあ憲くん。僕明日もう一度濱中くんの家に行くわ」
      「なんで?」
      「棚の上にあった、ガンダムのプラモ、壊してきてしもた」
      「ええーーーー!!なんやそれ〜!
       あっ、それでさっきの態度おかしかったんやな」
      「明日、謝りに行くからついて来て」
      「そんなん一人で行き!」
      「憲くん冷たい・・・・僕ら仲良しやん!仲良しトリオやん!
       さわやかトリオやん!」
      「そんなネーミング、いつ付けたんや!」 

    
                      PM22:00   

                                 この作品は、フィクションです
      

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